Bloomberg報道とアプリ内部コードが示す“秒読み”ムード

「HiFi始めます」と宣言してから早四年、アップルやAmazonに追い抜かれ、音質で肩身の狭い思いをしてきた Spotify が、いよいよ本気のロスレス配信へ踏み出すかもしれない。Bloomberg が 6 月中旬に伝えたところによれば、同社は「Music Pro」(開発コードネーム)と呼ばれる新プランを準備しており、ここに FLAC ベースの 24-bit/44.1 kHz ストリーミングを組み込む案が最終調整段階に入ったという。

開発版アプリが“口を滑らせた”技術仕様

Bloomberg の報道と並行して、PC 版と iOS 版の最新版ベータを解析した開発者コミュニティが、「Lossless」「FLAC」「最大 24-bit/44.1 kHz」という文字列を次々と発見した。設定画面の UI には、AAC の「Very High」より上に “Lossless” トグルが追加され、オフライン再生用のダウンロードもロスレス対応と記されている。1 時間あたり最大 1 GB に達する転送量の注意文まで用意されており、機能自体はほぼ完成していると見て間違いない。

料金は Premium+数百円? ただし日本価格は未定

Bloomberg の試算では、米国で Premium(10.99 ドル)に 5.99 ドル程度を上乗せする形が有力とされる。Apple Music や Amazon Music Unlimited が追加料金ゼロでロスレス/ハイレゾを解禁した手前、Spotify が「音質アップグレードは有料です」と打ち出した場合、支持を集められるかは読めない。しかし同社は「パーソナライズド機能」や「AI ミキサー」など、音質以外の付加価値も新プランに同梱して価格に説得力を持たせる腹づもりのようだ。

なぜ 24-bit/44.1 kHz止まり?

Apple が最大 192 kHz、Tidal が 96 kHz をうたう中で、Spotify のターゲットが CD 相当の 44.1 kHzに留まる理由は二つある。ひとつはカタログの大半がマスタリング時点で 44.1 kHz・24-bit までしかない現実、もうひとつはモバイル再生時の帯域負荷とバッテリー消費を抑えやすいという実務的判断だ。言い換えれば「最高に見える数字」を競うより「現実的に意味のある音質」を優先した選択とも取れる。

「音質軽視」の声は払拭できるのか

2021 年の発表から延期を重ねた結果、SNS では “HiFi Vaporware(蒸発した)” と揶揄されてきた Spotify。もし今夏にロスレスが実装されれば、「音質面ではおすすめできない」という辛辣な定評をようやく打ち消せる。もっとも、競合と同額での提供を見送る場合は「結局アップルのほうがコスパ良くない?」という反発も避けられないだろう。

発表タイミングは「夏フェス前」が最有力

米国業界関係者の間では「7 月末〜8 月上旬」が発表ウィンドウと目されている。理由はシンプルで、フェスシーズン真っ盛りに合わせて“ライブ級クオリティ”を訴求しやすいためだ。日本市場でも同時期に解禁されるかは不透明だが、少なくともアプリに実装済みのコードを見る限り、長い助走の果てにゴールテープが視界に入ったことは間違いない。

結論として――Spotify がロスレスを本当にローンチすれば、ストリーミングの“音質格差”議論は再び活況を呈する。サブスク疲れが叫ばれる 2025 年、消費者が「高品位オーディオに追加で払う」覚悟を持てるかどうか。サービス側の腕の見せ所は、数字よりも“聴けばわかる差”を体感させられるかに尽きる。